1953(昭和28 )年に中洲でオープンした老舗の時計・貴金属・宝石雑貨の店「中洲銀河堂」が、今年(2012年)12月28日に閉店する。戦後、焼け野原とバラックが残る中洲にオープン。それから約60年間、中洲大通の交差点の角で中洲の栄枯盛衰、夜の街で繰り広げられる悲喜交々を見続けてきた。また、中洲から老舗の灯が消えようとしている――。
交差点の角から中洲の変遷を見てきた「中洲銀河堂」。2代目の松井隆志さんは「ここ4、5年くらいで行き交う人の年代が変わった」という。キャバクラや風俗目当ての若年世代が増え、スーツ姿の社交族は減った。景気の後退により、まず接待交際費が削られる。そして交通費。新幹線の開通は、日帰り出張を増やし、宿泊して飲みに来る客の数を減らした。
さらに今、飲み屋の経営者の間で世代交代が進んでいる。「昔から可愛がってくれたママさんたちもいなくなりましたね」と2代目は寂しそうに語る。時計の修理などで同店を贔屓にしている客が時折来店するが、かつてを偲べるほどではない。
低価格を重視する客層や、それをターゲットにする店にとって、高級時計・宝飾品は縁遠いものであろう。何より客から店の娘へのプレゼント自体が減っている。今は、同伴・アフターを店の娘からおねだりされるのが当たり前。店によっては同伴にノルマがあり、客がとれない娘になると、同伴の食事代などを割りカンしたり、さらにはおごったりすることもあるという。もちろん、その相手はホスト君ではない。同伴ノルマに〝お付き合い〟してくれる〝お得意先〟だ。
「先日、親友の妹からオープンに来店して指名してくれないか、って頼まれたんです。しかし、その店、セクシーパブなんですよね。俺、ソイツの親とも仲いいし・・・。それで返答に困っていたら、『指名がとれないと出勤させてくれない!』って泣きつかれて・・・」(某スナック店員)
男が見栄を張って豪華なプレゼントを女に買い与えていた時代は過ぎ去った。このまま不景気が続けば「女が金を出す同伴」がますます増えるかもしれない。もっとも、そうした営業を強いる店だからこそ、悪循環から抜け出せないでいることは言うまでもないが。
「中洲銀河堂」は、11月5日から12月28日まで、完全閉店の一般セールを開催する予定。中洲の歴史があふれる老舗の品物がたいへんお買い得になる。昔じゃ当たり前だが、今はサプライズ。この機会に気になるあの娘へのプレゼントを購入してはいかがだろうか。
長丘 萬月 (ながおか まんげつ)
福岡県生まれ。雑誌編集業を経て2009年フリーに転身。危険をいとわず、体を張った取材で蓄積したデータをもとに、「歓楽街の安全・安心な歩き方」をサポートしてきた男の遊びコンサルタント。これまで国内・海外問わず、年間400人以上、10年間で4,000人の歓楽街関係者を『取材』。現在は、ホーム・タウンである中洲(福岡市博多区)にほぼ毎日出没している。
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